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 無じる真ープロローグ




 学生服を着た少年は自分がこの世界に来てからあっという間に時が過ぎた数々の出来事を思い出す。
 フランチェスカという学園にある歴史資料館。
 そこから鏡を盗み出そうとした謎の少年――後に"左慈"という名前であることがわかった――と関わったことでただの学生であった北郷一刀は異世界――これもまた後に"外史"という特殊な存在であることをしることとなったのだが――へと飛ばされたのだ。
 そして、一刀は二人の少女と出会った。そこから北郷一刀を中心とした物語が始まったのだ。
「懐かしいな……」
 過去を懐かしみながら一刀は思い出していく、自分が、いや自分たちが乗り越えてきた戦いの数々を。
 ―――黄巾党退治―――
 ―――反董卓連合―――
 ―――曹魏との苛烈な戦い―――
 ―――孫呉との複雑な戦い―――
 そして、最後となるであろう世界を終わらせないための戦い。その戦いも、いよいよ終局を迎えていた。
 白装束の軍団に苦戦したものの、魏や呉のみんなの手助けもあり、一刀たちはなんとか泰山の頂上に聳え立つ神殿へと辿り着くことができた。
 そんな彼らの前に立ちふさがる始まりの時にであった少年――左慈、そしてその相棒らしき男、干吉……。
「ふん……すでに時は止まらず、終端は近づいてきている。なにをしても終幕からは逃れられんさ」
 その銀髪を揺らしながら左慈が一刀を睨みつける。明らかにすぐにでも襲い掛かろうとしているのがわかる。
 そんな左慈から一刀を庇うように彼と共にこの神殿へとやって来た少女たちが前へと出る。


 髪を後ろで結わいている太めの眉毛が特徴的な少女が自分の得物である銀閃を構えながら左慈を睨みつける。
「逃げようなんて思ってなんかないさ、あたしらは」
「たとえ、最後となろうとも己の勇姿を見せ続けるのみ」
 続くように後ろ髪の一部を纏めている青髪の少女がその切れ長の目で彼女の敵を睨みつけながら龍牙の切っ先を向ける。
「愛しき人のため全てをかけて……」
 母性に溢れる女性が、紫の髪をかき上げ、颶鵬の照準を自らの敵と決めた"的"に合わせ、矢を引く。
 その隣で帽子を押さえながら躰を振るわせていた小さき少女が目一杯胸を張り、彼女にしては珍しい仁王立ちで一刀と左慈の間に立っている。
「あなたたちを倒します」
「それだけなのだ!」
 赤みがかった髪に虎の髪飾りをつけた少女がその小柄な見た目からは想像できないような気を放ちながら八丈蛇矛をかまえる。
「さぁ、我らが相手となろう」
 黒髪が美しく、それにより纏っている凛々しさを際立たせている少女が青龍偃月刀を構え、真っ直ぐ左慈を見据える。
 彼女たちの言葉と視線を不快そうに受けていた左慈は、彼女たちをにらみ返しながら構えをとる。
「ふんっ、いいだろう! ここを貴様らの終焉としてくれるっ!」
 その声が合図となり、左慈と少女たちの戦闘が開始される。


 左慈を少女たちが抑えてくれている間に、一刀は自分にしか出来ないことをしなければならなかった。
 そう、今回の"鍵"である始まりを呼んだ"銅鏡"。それをどうにかすることが出来ればこの戦いに終止符を打てる一刀はそう考えていた。
 ただ、実際に鏡をどうすべきなのかはわからない。だが、それならばどうすべきかわかるであろう人間に訊けばいいだけ。一刀はそう思い対象の人物を見やる。
 そう……少女たちと交戦中の左慈や先程から眼鏡をついと挙げながら鼻につく笑みを浮かべている于吉らと同じ外史の剪定者たる存在――貂蝉を。
 そう判断した一刀は、干吉と貂蝉の間に置かれている"銅鏡"へと向かいながら貂蝉へと訊ねる。
「貂蝉、俺はどうすればいいんだっ!」
「ふふ……こうすればいいのですよ」
 不適な笑みを浮かべながら干吉が必死な形相で走る一刀へと向かって鍵となる"銅鏡"を投げて寄越した。
「っ!!」
 一刀はそれを落としそうになりながらもなんとか受け止めることに成功する。
 そして、腕の中にある銅鏡に何も無かったことに一刀が安堵のため息を吐いた。


 ――その瞬間――
「うわっ!?」
 ――鏡が淡い光を放ち始める――
「こっこれは!?」
「残念だけど、この外史はすでに終幕を待つ状態となってしまったわ……あとはいかに終わりを迎えるか……それだけ」
 貂蝉が切なげな表情で一刀を見つめながらそう告げる。
 ――その光はこの物語の突端に放たれたものと同じ光――
「そう、そしてあとはあなたによって――――」
 干吉が何かを言っているがもう一刀には聞き取ることなどできない。
 ――徐々に聞こえなくなる、周りの音――
(くそっ、周りが……)
 ――視界もぼやけ始め、見えなくなる――
 ――白色の光に包まれながら、一刀はこの世界との別離が訪れたことを悟る――
 ――自分という存在を形作る想念――
 ――その想念が薄れていくことを感じながら、それでも一刀は願う――


 ――みんな――


(出会ってからずっと俺を支え続けてくれた愛紗、いつだって元気な笑顔を見せてくれた鈴々、どんなときも一生懸命だった朱里、どこまでも真っ直ぐでいた翠、学ぶことの大事さを教えてくれた星……そんなみんなの支えとなってくれてた紫苑)
 光に埋め尽くされた視界、一刀はそこに不思議と少女たちの姿が見える気がした。
(無口だけど優しい恋、陽気で明るい霞、口うるさくしながらも気遣ってくれた詠に心根が優しいながらも強さ持ち始めた月。敵対し、文句を言いながらも仲間となって、俺を助けてくれた華琳たち魏のみんな)
 一刀は、そうして覇王として少女のことを思いだし、次にとても国というもの考えていた少女が思い浮かべた。
(王としての責任、役割……そういったものを教えてくれた蓮華たち呉のみんな……)
 そして一刀の想いは遡り続け、この世界で生きてきた中で出会った少女たちのことまで巡り始めていた。
(力の無かった俺を助けてくれた、義侠に富んだ少女、公孫賛、周りの人間に恵まれていることを自覚させてくれたかもしれなくもない……いや、正直よくわからない袁紹たち)


 そうして、様々な顔が次々と浮かんでは消え、そして……一刀の意識は途絶えることとなった――――。


「んっ……んんっ……」
 わずかに頬をなでる心地よい風によって一刀は曖昧な意識が徐々に目覚めはじめる。覚醒し始めた意識の中、疑問が浮かぶ
「あれ?」
(確か俺は干吉たちと対峙していて……)
「みんなはっ!?それにここは……」
 あたりを見回してみると、そこにはどこまでも続くような大地、遠くには山―――そんな風景が存在していた。
 見覚えのある風景が広がってるのを見て一刀はわけがわからなくなる。
「俺は、世界は消えずにすんだのか?」



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