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「無じる真√N07」
公孫賛の元へ劉備たちが訪れてから数日たったある日、劉備三姉妹と共に一刀と趙雲は城門前へと訪れていた。
互いに公孫賛に呼び出されたことを知り、一体何事なのだろう首を傾げつつ目的地へと向かう五人。
そして到着したときに一刀たちが目にしたのは、公孫賛軍の兵たちがずらりと集合している光景だった。
「すごいね! 全員、白蓮ちゃんの兵隊さんなんでしょ?」
劉備たちも、その光景に驚いているようだ。その様子に合流した公孫賛もまんざらでもなさそうにしている。
正直なところ一刀も驚きを隠せないでいた。
公孫賛に拾われてからこれまで、どれだけの兵が所属しているか正確な把握をしていなかったもののそれなりにはいると思っていた。
とはいえ、これほどの数いるとは一刀も思っていなかった。
「まぁな。ただ、正規兵と義勇兵の混ざった混成部隊なんだがな」
劉備に頬を掻きつつ答える公孫賛。そんな彼女に関羽が更なる質問を投げかける。
「義勇兵はどれくらい集まったのですか?」
「そうだな、全体の6割以上は義勇兵のはずだぞ」
「え!? そんなにですか?」
「あぁ、最近、急激に増えたんだよ」
義勇兵の数に劉備が吃驚している。
「すごいね。白蓮ちゃんの人徳かな?」
素直に感嘆の声を上げる劉備に微笑を浮かべつつ趙雲が口を開く。
「いや、どちらかといえば北郷殿の案によるものですよ」
「北郷殿の?」
趙雲の補足に関羽が首を傾げつつ聞き返す。
「あぁ、そうだ。実は治安向上を図った案を北郷殿が提案してな」
趙雲の説明の合間に関羽らの簡単の溜め息が漏れる。
「その案を実際に起用してみたところなかなかの成果を得られてな。そして、それによって治安が高まったことが周辺の村や街を基に広がっていったのっだ」
「なるほど、、そうして徐々に人がこの街に集まってきて、それに比例するように徴兵や義勇兵の数が増えたわけだな」
趙雲の説明に感心しながら関羽は一刀へと視線を向ける。
一刀は、それに気づくと頭を掻きながら苦笑混じりに口を開いた。
「いや、俺はきっかけを作っただけさ。大陸の情勢に不安を感じているからこそ、みんな集まってくれたんだと思うんだ」
「確かに、それもあるでしょうな」
「うむ、そうだな。特に最近は、各地で盗賊だの何だのといった匪賊共が跋扈しているからな……」
「この国はどうなっていくのだ……」
張飛のその言葉に誰しもが表情を暗くし、顔を俯かせる。それぞれがやりきれない想いを顔に貼り付けている中、趙雲が口を開いた。
「多くの人々のため……誤った方向へは行かせぬさ。この私がな」
そう告げた趙雲の瞳には、何か強い意志を感じさせる光が宿っていた。凛々しく、誇り高い、そんな横顔に一刀は思わず見惚れてしまう。
「趙雲殿!」
「どうかなされたか? 関羽殿」
「貴女の志は素晴らしいものだと思う。もしよければなのだが、我らと盟友となってはくれぬか?」
「鈴々もなってほしいのだ!」
「あ、わたしも、わたしもー!」
趙雲への関羽の申し出に張飛、劉備も賛同していく。それに対して口元を綻ばせ機嫌の良さを表すかのような笑みを趙雲が浮かべる。
「ふむ、私もそうなりたいと思っていたところ」
「ではっ!」
「あぁ、ただ、北郷殿はよろしいのですかな?」
「え? 俺?」
急に話を振られた一刀は思わず自分を指さした。
「北郷殿とて、この大陸に住む人々を救いたいと思っておられるのでしょう?」
「そりゃあ、思ってるさ。そのために俺が出来ることがあるっていうなら全力をもってしようとは思ってるし、実際にするつもりだ」
「おぉ、さすが天の――」
「天の御使いとして、とか関係なく一人の人間としてだからな」
天の御使いという特殊な要素で自分を判断されたくなかった一刀は関羽の言葉に強めに訂正を入れた。
「なるほど……趙雲殿が慕っているわけだ。なかなかに好人物のようだな」
「ふふ、そうだろう。この御方はとても興味深くてしょうがない」
「そんなに、不思議な存在でもないだろ俺なんて」
「そんなことないと思うよぉ」
「そのとおりなのだ。でもお姉ちゃんも一緒なのだ」
「えぇーわたしも!?」
「ふふっ、そうですね。私もそう思いますよ。桃香様」
「その意見には私も同意ですな」
「そうだな」
一刀のことを変わりものであるかのように言っていた劉備が逆に周りから同じであると言われ困惑する。
そんなやり取りを通して場が笑いによって包まれていく。それからしばらくの間五人は一頻り笑い合った。
そして、それぞれが落ち着いたのを頃合いとし、趙雲が仕切り直すように口を開いた。
「では、我が真名を四人に預けるとしよう。星と呼んで頂きたい。よろしく頼む」
時折見せることがある、至って真面目で凛々しい表情をしながら趙雲がそう告げる。
「私も、真名を預けよう。これからは、愛紗と呼んでくれればいい。よろしく頼む」
趙雲に勝るとも劣らぬ凛々しさを漂わせながら関羽がそう口にした。それに続くように張飛が両手を挙げて満面の笑みを溢れさすように開口する。
「鈴々の真名は、鈴々なのだ。よろしくなのだ」
「わたしは、桃香だよ。よろしくね」
趙雲、関羽、張飛と続いた真名交換に劉備も加わるように笑顔でそう告げた。
そして、四人の視線が一刀に集まる。あぁ、自分もする必要があるのかと思い口端を吊り上げつつ、一刀は見つめ返す。
「みんな、よろしく。俺には真名が無いからな……よければ呼ぶときは"一刀"って呼んでくれないか」
「ふむ、わかりました。では、今後ともよろしくお願いしますぞ。愛紗、鈴々、桃香殿、そして……一刀殿」
「あぁ、今後とも頼む。星、一刀殿」
「わかったのだ、星。それと、鈴々はお兄ちゃんのままで呼びたいのだ」
「もちろん、それでも構わないよ」
「にゃはは、よかったのだ」
「よかったね鈴々ちゃん。それと、よろしくね。星ちゃん、一刀さん」
四人がとてもいい笑顔を浮かべる。その光景に一刀は思わず見惚れてしまう。
不思議と穏やかな空気が場に浸透していく――そんなとき、五人のもとに声が届く。
「おーい、私のことを忘れてないか〜?」
どこか、眉を潜め寂しげな表情をした白蓮が一刀たちの方へとやってくる。
「別に忘れてないよ。白蓮ちゃん」
「そうだぞ。あ、そうだよかったら白蓮も俺のことを一刀って呼んでくれよ」
「な、なな、なに言ってるんだ。私は、別に……その……あの」
公孫賛はそう言うと一刀から視線を逸らしそっぽを向く。それから何事か言おうと口を開いては閉じるというのを繰り返し、ついには俯いてしまった。
そんな様子から察するに、また余計なことを言ってしまったのだろう。そう結論づけ一刀は公孫賛に対して非常に申し訳なく思った。
「そうだよな……こんなこと言われても困るのが普通か……ごめん」
「っ!? い、いや、そんなことないって。お前の信頼の証なんだろ、なら喜んで呼ばせてもらうぞ、一刀」
頬を真っ赤に染め、あたふたしながらもしっかりと答えた公孫賛に笑みを零しつつ一刀は礼を言う。
「……ありがとう。白蓮」
そして、二人は自ずと見つめ合う。何故かしばらくそのままでいたが途中で誰かが公孫賛に声をかける。
「おやおや……白蓮殿こそ、我々をお忘れですかな?」
「―――!? ば、馬鹿言うな! 忘れてなんていないぞ」
先程自分が言ったことを逆に趙雲から指摘されて公孫賛は一層顔の赤さを増した。
その後も一刀たちが様々な会話をしていた。そして、そのうちに陣割が決定した。
†
劉備たちは左翼、趙雲と一刀が右翼を率いることになった。
そんな割と重要な役割を、新しく参入した劉備たちや経験不足の一刀にまかせるというのは公孫賛なりの信頼の表現なのだろう。
一刀は、その信頼に答えるためにも頑張ろう、と密かに意気込む。同時にきっと、劉備たちもそう思っているだろうとも思った。
戦場にはここに来てからも何度か経験している。とはいえ、一つの隊を趙雲と協力してとはいえ率いられるだろうか、足手まといには鳴らないだろうか……。
そんな風一刀がにいろいろなことを考えていると、
「諸君、いいか!」
その声の方を向くと、公孫賛が兵たちへ向けて雄弁を振るっていた。
「いよいよ、出陣の時が来た! 今まで、幾度となく奴らとは相まみえ、そして討伐してきた! だが、奴らは、その度に逃げ散っていた」
そこで一端区切ると、公孫賛は大きく息を吸った。
「いいか! 今日こそ、奴ら賊共を成敗……いや、そんな言葉では生ぬるい! そう、殲滅してくれようではないか!」
その言葉に、一刀の喉がごくりとなる。普段の公孫賛を見ていると忘れそうになるが彼女とて武勇に優れた人間なのだ。勇ましい部分があってもおかしくはないのだ。
「公孫の勇者たちよ、巧妙の好機だ! 手柄を立てたければ、各々、全力をもって戦ぇ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ―――――――!」
公孫賛が声を振り立てて叫んだのに対して、兵たちが大地を震わすほどの雄叫びを上げて答える。
そんな、兵たちの様子に満足そうに頷くと、公孫賛は
「さぁ、出陣だ!」
自分の剣を掲げ、号令を出した。その号令を合図に、城門から公孫賛軍が出発する。
出陣の流れの中、趙雲が隣にいる一刀へ声をかける。
「どうかなされましたか?」
「いや、ちょっと緊張しちゃってな」
前の"外史"では、結局慣れることはなかったとはいえそれなりに経験は重ねた。
しかし、この世界にきてからはさっぱりだったためか、戦場へ向かうことを考えるだけで一刀の躰は硬くなってしまう。
どうやら、培われていた感覚が少々鈍ってしまったらしい。
「ふむ……怖いのですかな?」
「ん? まぁ、恐怖は感じるさ……でも、俺は白蓮を支えることを決めた。それに、ここにきてから仲間もできた……」
「そうですな」
「それだけじゃない……街のみんな、近隣の村の住人たち、俺が見てきた人たちだって誰かが護ってあげなきゃいけないんだ。なら、俺はそんな人たちを護るために戦う! ……そう、決めたんだ。だから、これから起こることから逃げようとも思わないし目を逸らさない」
「よい心がけです。その想いを忘れずにいてくだされ。さすれば、一刀殿の身は、この趙子龍がお護りいたしましょう」
「はは……なんか格好つかないな。偉そうなこと言って結局は星に護ってもらうなんてさ」
「ふふ……人には出来ぬことの一つや二つあるもの。それを認めることこそが成長の早道となります。ですから、私に護られる今を恥じるのではなく、その胸に抱いた想いを一刀殿の心に刻んでくだされ」
「あぁ……わかったよ。俺は、決して忘れたりしない。そして、誰かに護られなくてもせめて自分の身を守れるようにはなる。そして、何らかのかたちででも、誰かを護れるようになってみせる」
拳を握りしめながら一刀は力強く頷いた。
一刀が口にした”誰かを護りたい”という言葉……それはあの"外史"との"別れ"によって刻まれた"後悔"と一緒に一刀の中で産まれた想いであり、もちろん今もなお胸の中で生き続けている。
「ふふ……きっと一刀殿は良き男になられるのでしょうな」
口に手を添えつつ、意味ありげな笑みを浮かべる趙雲。一刀はそんな彼女に肩を竦めた。
「おいおい、変な期待して……裏切られても知らないぞ……」
「おや? 裏切るのですかな」
「さぁな、それはこれからの話だろ?」
「ふ……それもそうですな」
互いに、軽口をたたき合う。気がつけば一刀の震えは収まっていた。そうやって趙雲と会話を交わすことで心を落ち着かせていると、兵が駆けてきた。
「全軍停止せよ、これより我々は鶴翼の陣を敷く! 総員、準備せよ!」
本陣から前衛へと駆ける伝令を聞き、鶴翼の陣を敷くため動く。多くの人間が一つの生き物のように動く様を見ながら一刀は口を開く。
「いよいよ……か」
新たにやってきたここでも再び戦場に立っている。これから目の前で多くの命が失われるのを瞳に映していくことになる……。
そのことに一刀の胸の鼓動が速くなる。
前の"外史"でも、実際に戦の行われる場所に居合わせ何度も見てきた凄惨な光景。その中で奪い、奪われていった命……。
そんな、命のやり取りを間近で自分の目で見てきたけれど、決してそれに慣れるということは一刀には出来なかった。
そんなことを思い出しつつ、改めて気を引き締め一刀は前を向く。
「では、兵たちの指揮は私が務めます。一刀殿は、今回は見ていてくだされ」
「……そうだな、俺が出しゃばればったりしたら、みんなの足を引っ張ってしまうだろうからな。だから、今は諦めることにする……」
自らの弱さを理解しているからこそ無茶はできない。そして、未だ誰かに護られる立場にある。そんな自分が不甲斐なく一刀は唇を噛みしめる。
「今はそれでよいのです……今は。さて、そろそろのようですな。それでは」
「あぁ、気をつけてくれよ!」
「えぇ、油断などいたしませぬゆえ、安心して見送ってくだされ」
そう言って僅かに笑みを造って見せると趙雲は表情を引き締める。
「さぁ、趙雲隊の兵たちよ! 我と共に賊共を蹴散らしてくれようではないか! 奴らは兵数で我らを上回っているが所詮は雑兵の集まりにすぎぬ。気後れする必要などないのだ! されど、慢心はするな! 完膚無きまでに叩きのめすのだ!」
趙雲の凛々しく、どこまでも通るような声が辺り一帯に響く。
「おう!」
そんな、趙雲の迫力に負けじと兵たちが気合いの込もった声で呼応する。
「全軍、戦闘態勢を取れ!!」
そして、趙雲の号令に従い兵たちが抜刀する。それと同時に、賊軍が攻め込んでくる。
「賊軍、こちらへ突出してきました!」
「よし! 行くぞ、奴らに我らの力を思い知らせてくれよう!」
そんな、趙雲の声が合図となったかのように両軍が勢いよく激突する。
兵数こそ賊軍が勝っているものの、地道に調練を積んできた兵たちと比べれば力の差は歴然だった。一刀の瞳に各隊が敵軍を撃破していく光景が飛び込んでくる。
そんな中でも、趙雲の活躍が印象的だった。
隊の先頭を走り、敵中へと飛び込み何人もの敵兵を相手に大立ち回りをしている。
一人で相手をしているというのに一切敵を寄せ付けない。
趙雲が一振りすれば数人の敵が地に伏す。
彼女が前方に飛びながら突き放てば敵の姿が一瞬で消え、道ができあがる。
その様子は、見ている一刀にただすごいとしか表現できないことを悔やませるほど痛快さと美しさがあった。
もちろん、隊の兵たちも活躍し続けている趙雲を補助するように上手く動いている。それらの効果もあってか敵兵の数が徐々に減っていく。
そして、公孫賛軍の攻撃に賊軍が怯み始めたのを機に趙雲が口を開いた。
「よし、敵は総崩れだ! 今こそ、奴らを完膚無きまでに殲滅する好機! ここで、雁行の陣へと移行しつつ左翼と動きを合わせながら挟撃を行う! 皆、我に続け!」
周囲の兵にそう言い放つやいなや趙雲は、敵兵を蹴散らしながら戦陣を切るかのように突き進む。
それに続くように兵たちが勢いよく敵へと突っ込んでいく。その勢いのまま動く右翼に左翼が呼応するように動き、気づけは中央に追われていた敵が挟みこまれる。
そこまで追い詰められながらもなんとか逃げようとも動きまわる一部の賊軍を白馬隊が補足し、騎射よって次々と撃破していった。
その様子は、白馬義従の名が伊達ではないことを思い知らせるのに十分だった。
こうして戦闘は公孫賛軍が終始圧倒する形で進んでいき、ついには賊軍の撃破に成功するのだった。
†
賊軍との戦いが終わってからしばらくの間、一刀は気分が悪くなり顔を青ざめぐったりとしていた。どうやら久しぶりの本格的な戦場への参加が応えたらしい。
そんな様子の一刀も帰り支度が整う頃には幾分かは楽になっていた。
もちろん弱々しい姿となっている一刀に声をかける者もいた。
一刀の抱く感情は人として当たり前のことであるということや、むしろ、そう思える心を持ち続けるべきだとか、気遣ってくれるものばかりだった。
そんな言葉たちが一層、一刀の気分を楽にしてくれた。
それから城へと帰還する途中、公孫賛がご機嫌な様子で口を開いた。
「いや〜快勝だったな。奴らにはずっとやきもきさせられていたからな、やり遂げたって感じがするな」
「しかし、白蓮殿。近頃は、なにやら雲行きが怪しいとは思いませぬか?」
ご機嫌な調子で笑っている公孫賛に、真剣な表情をした趙雲が訊ねる。それに対して公孫賛が首を傾げる。
「怪しい? 私は特に気づかなかったがな」
「白蓮殿。私も星の言うとおりだと思います。近頃は匪賊どもの動きも活発化しているようですし……」
「……確かに、言われてみるとそうだな」
関羽の指摘に思い当たることがあったらしく公孫賛が頷く。
その会話を切欠に少女たちは、現在この大陸全土で起こっている様々な事態に関して語り合い始めた。
彼女たちの会話を聞きながら、一刀は前の"外史"で仲間と共に軍を立ち上げて初めて関わった大きな出来事を思い出していた。
「そう遠くないうちに、動乱が起こる……か」
「一刀殿もそう思いますか」
何気なく口にした言葉に対して聞き返してくる関羽に一刀は頷いてみせる。
「あぁ、きっと起こる……それも、かなり大きな爆発となって」
「ふむ、一刀殿はなにか確信をお持ちのようですな」
断言した一刀を趙雲が興味深そうに切れ長の目で見つめる。
「まぁな……きっと、今の悪い循環が大陸全土を包んでいって最終的に暴動が起こる……そんな気がするんだ」
「そうか……一刀がそう言うならきっと起こるんだろうな……兆候も見られるようだしな」
「……そうですな」
一刀の言葉に、公孫賛と趙雲が同意するように頷く。ただ、その顔はあまり優れていない。おそらくはこの大陸の行く末を案じているのだろう。
「そんな中でわたしたちになにが出来るか、それが重要になるってことだよね?」
劉備が、彼女にしては珍しい真剣な目つきで口に出した想いに関羽が深々と頷きながら同意の趣を口にする。
「そうですね、動乱の渦に巻き込まれれば今以上に涙に濡れる人々が現れるでしょう」
「そんな人たちのためにも、鈴々たちは頑張るのだ!」
片腕を天に衝き上げながら元気いっぱいに告げられる張飛の言葉。その言葉は、ここに居る者たちの思いを表しているように一刀には思えた。
そう思えたからこそ……いや、少なくとも自分は同じだと思えたからこそ、一刀は張飛の言葉に頷きながら開口した。
「そうだな……」
そうして見上げた空は、これからこの世界に訪れる未来を暗示しているかのように暗くどよめき荒れ始めていた。
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